キャノンリング
新しいアトラクションがが面白いという噂を聞き、私は妻と下の娘を連れ、久しぶりに遊園地に訪れた。
そのアトラクションはキャノンリングと言い、チューブ状のサーキットの中で、周回している悪役が放つ弾丸から逃げるという、鬼ごっこのようなシンプルなものであった。
逃げた時間やクリアしたミッションによりもらえる景品が豪華になるということもあり、子供より大人が熱中しているようであった。
しかも弾丸を放つ悪役に有名芸能人のタカさんが含まれている事も、ゲームを盛り上げていた。
キャノンリングの中に入れる人数は100人と制限されており、弾丸に当たり退場となった者が出ないと入場ができない事から、来客が多い日には待ち時間が数時間という事もざらであった。
その日は休日であったものの来客はさほど多くなく、15分ほど列に並んで入場することができた。
入場の際にスマートウォッチを手に巻かれた。逃げた時間を計測する事、ミッション達成のために使用する事、弾丸に当たると感知する事等、このゲームで最も重要な装置との事である。
入場してまず、チェックポイント10か所にスマートウォッチをタッチして回るミッションにチャレンジした。このミッションをクリアしない事には、何ももらうことができないチュートリアル的なものである。
3か所目のチェックポイントをクリアした時、後方から悲鳴と怒声が聞こえた。
『おらおらおらぁッ!』タカさんである。特大の弾丸を特殊な装置で弾き飛ばしている。一瞬で3人のチャレンジャーがゲームオーバーとなった。
これは狙われると逃げられない。先を急ごうとしたその時、小学校低学年くらいの眼鏡をかけたおかっぱ頭の男の子が泣いていた。親とはぐれたらしい。仕方なく手をつなぎ一緒に走る。
タカさんの声が聞こえなくなったので走るのをやめ、少年に名前を聞いた。
『ヒロム』少年は答えた。100ポイントためてスイッチをゲットするのが今日の目標らしい。現在のスコアは逃亡時間10分、ミッションポイント3。
100ポイント貯めるには60分以上逃げる事と40ポイントのミッションを達成する事が必要だ。かなりの幸運が必要だろう。
「ゲットできるといいね。」和んでいるのも束の間、メイドコスプレをした女子大生3人が悲鳴をあげながら私たちを追い抜かしていった。
「また来た、ヒロム君逃げよう」少年の手を取ろうとした時、少年は俯いて首を振った。そしてくるっと振り返ると、ウオーッと雄たけびを上げながら迫りくる敵に向かっていった。
キョンシーに特攻をかけたスイカ頭を思い出しながら、それは無謀だよと目で追っていると、あえなく特大弾丸にぶち当たりゲームオーバーとなっていた。
『さよならー』ヒロム君の断末魔が虚しく響いた。
「ごめんヒロム君、ここでお別れだ!」
私はまた、キャノンリングを走りだした。