空き巣
家に帰るとリビングの窓が完全に開いていた。
その横にぐにゃりと形を変えられた網戸が置かれている。
空き巣?
この部屋にある盗られそうなものを確認して回る。
一眼レフ、ノートパソコン、スイッチ。どれも存在する。
部屋が荒らされた形跡もない。
何?誰?被害は網戸だけ?意味が分からない。
恐怖感でゾクゾクしながら隣の部屋に行くと、ガサガサと誰かが潜む音がした。
「誰かいる?」恐る恐る、強めの声でもう一度尋ねる。
「誰かいる?」
『ワァッ!」
威勢よくおじさんが飛び出してきた。
「おやじ!何してるん?」
自分の父親であった。ここ数年で一番イラっとした。
『サプライズよ。元気してるかい?』
こちらの気も知らず、親子の会話をしかけてくる。
「つーか、網戸なんでこんな曲がってんの?」
恐怖感以外では、唯一の被害物について問いただす。
『窓の鍵がかかってなかったから、入ろうと思ったら、網戸が外れて落ちたわ。最初からや。不可抗力よ。』
不可抗力ではないだろう。そして絶対に最初からではない。
まあ、網戸って買い直せば1万円くらい?
弁償してもらえばいいかと思い直し、久しぶりの父親の来訪を楽しむことにした。
人生で最も大切な事は切り替えである。これは、親父から教わった事だった。