図書館が好きな理由
私には趣味がない。
そのせいか、人と会話するのが億劫である。
私から話す事はほぼ無く、聞き役に徹するのであるが、人の話を聞いて、相槌を打ち、質問を捻りだし、笑い声をあげる、その作業に辟易としている。
そんなわけで、休日にする事が無い。
通常は、朝起きたままの格好で、一歩たりとも家から出ない。
気分が乗った時は、少し外の空気に当たりたくなり、近場を散歩するのであるが、すぐにそれも飽きてしまい、大抵行き着く先が図書館である。
私の町の図書館は恐ろしく小さくて、古い。
いつ行っても来館者はほぼゼロである。
入館するとまず司書のおばあさんに、老猫のようなジロリとした目で見られる。
まずはここが第一の関門である。
一階は子供用の本がほとんどなので、私が読みたい本はほぼ二階にある。
一階をぐるりとし、読みたい本が無いことを確認してから二階に上がる。
読みたい本が無いことはわかっているのに、毎回一階をぐるりとする理由は、二階に上がるのに困難が待ち受けているせいである。
というのも、二階に上がるための階段が、人ひとり通れるくらいの細さで、角度が60度くらいと非常に急な斜面になっている。
しかもなぜか二階に着く少し手前の段に、携帯扇風機が6個くらい、不安定な状態で立てかけられているのである。
よって、できる限り振動を起こさないように上る。
少しのひずみで携帯扇風機が転げ、階段の下に落ちて行ってしまうのだ。
過去二度ほどそのミスを犯してしまい、その度におばあさん司書に階段の下からジロリと見られた事がある。
「すみまません」と謝る私に、おばあさんは何も言わず、携帯扇風機を拾い上げ階段に立てかける。
その無言の叱責が恐怖で、二階に上がる為のウォーミングアップが必要なのだ。
そのトラップを飛び越えてなんとか二階にたどり着くと、晴れてゲームクリアー。
誰一人いない空間に、壁一面ずらりと本が並んでおり、北側の窓辺には畳座敷がある。
そこに座りたった一人の来館者として、暗くなるまで本を読み続けている。
帰り際には、次来るときはこの図書館の存在が無くなっている気がして、おばあさんに心から「さようなら」と言って退館する。
おばあさんは最後まで無言で、ジロリと私を見送る。
こんな町の図書館が、私にとって最高の居場所なのである。