今回の研修で学んだ事
わが社の研修には、外部コンサルタント会社から講師を招くことがほとんどである。
その日は例外で、講師はわが社の人事部社員で、年齢は30代半ばの若手であった。
こんな若手社員に何を教わる事があるのか等と斜に構えてみていたが、侮るなかれ恐ろしく饒舌に研修を進めていく。
しかもこれまで見た中でダントツに字が上手い。
ホワイトボードにすらすらと書き込まれるキーワードは頭には入ってこないものの、目には焼き付けられた。図形についても同様、描かれる円は真円とはこの事なりと言っても過言ではなかった。
頭打ちの事業を止めにして、この講師を商品化して、コンサルタント会社を立ち上げた方が儲けを出せるのは無いだろうか。
それほどまでにこの同僚講師は堂々たるものであった。
そんな彼が、研修も中盤に差し掛かった頃、突然語気を強めだした。
かかっている、競走馬であればそんな表現をされる状況であった。
スパートとは違う、明らかに異常な興奮状態になっていた。
彼がその状態になったのは、受講生の長川さんが質問した事に端を発した。
質問内容への返答を終えると、長川という苗字に食いつき、過去に長川という上司にお世話になったという話を始めた。
お世話になったというのは婉曲的表現で、実際はパワハラを受けていたようであった。
今回の研修のテーマにも沿っていた為、その数々の事例を生々しく説明した。
怒って口をきいてくれなくなったその上司に、土下座をして許しを得た等、聞いてるこちらも反吐が出そうな話をしている時だった。
若手講師の顔は真っ赤になり、声に涙が混じり、少しして嗚咽が始まった。
会場全体が異様な光景に静まり返った。
受講生の長川さんは、講師が言う長川さんとは赤の他人であったが、申し訳なさそうに俯き、頭を下げ謝っているように見えた。
こういう形のパワハラも存在しうることを学んだ。